8月22日の釣行で持ち帰ったケンサキイカを、沖漬けにして食べたのが2週間前になる。そのとき食べきらずに残した分を、1杯ずつ冷凍していた。今回はそれを解凍して食べた話である。
先に結論を書いておく。沖漬けは冷凍できる。味は落ちなかったし、それどころか皮は生のときより剥ぎやすくなっていて、料理としてはこっちのほうが楽だった。
漬けるのは2日で止めて、残りは凍らせる
沖漬けは3回作って、3回目でやっとちょうどいいところに来た。1回目は2倍濃縮の麺つゆに12時間で、身に味が入らず。2回目は3倍濃縮を二段階で漬けて、今度は辛い。3回目に等倍のだし醤油で2日漬けて、やっと当たりが出た。
ここで大事なのは、2日で止めているということだ。漬けっぱなしにして5日目、6日目のイカを食べているわけではない。ちょうどいい味になった時点で刺身と唐揚げにして、食べきれない分はそこで冷凍に回す。この日は6杯だったので、食べた残りが3杯あった。
つまり冷凍は、味を止めるための冷凍でもある。放っておけば漬かり続けて、せっかく当てた味が濃くなっていくのだから。
そう考えると、濃さと漬ける時間はセットで決まる話なのだと思う。自分の等倍で2日というのは、あくまで2日置く前提での濃さだ。逆に、その日のうちに、あるいは1日以内に食べてしまうなら、2倍や3倍の濃いタレでも成立するのかもしれない。1回目に12時間で味が入らなかったのも、時間が短かったことは効いていたはずである。
ただし、自分の3回は条件が揃っていない。1回目と2回目は麺つゆ、3回目はだし醤油で、そもそも製品が違う。2回目にいたっては、家に帰ってから新しいタレに入れ直す二段階で漬けている。濃さと時間だけを取り出して並べられるほど、きれいな比較にはなっていない。
それに、どこがちょうどいいかは好みの問題でもある。自分は等倍で2日に落ち着いたが、もっと濃いほうがいい人もいるだろう。濃さと時間と好み、その三つを自分の食べ方に合わせて決めるものなのだと思う。
ポリ袋で空気を抜いて、それをジップロックに入れる
凍らせ方は決まっている。1杯ずつポリ袋に入れて、できるだけ空気を抜いてくくる。それをジップロックに入れて冷凍庫へ。この二重が自分のやり方だ。

ポイントは1杯ずつというところで、これは味の話ではなく完全に都合の問題である。まとめて一袋で凍らせてしまうと、食べたい分だけ取り出せなくなる。3杯が一塊になっていたら、1杯食べたいだけの日に3杯とも解凍する羽目になる。
魚を長期保存するときは袋ではなく真空パックにするが、イカはそこまで神経質にしていない。ポリ袋で空気を抜けば十分だと思っている。真空にしたところで温度管理を間違えれば腐ることは、身をもって知っている。
2週間後、常温に20〜30分置く
冷凍したのが8月24日。食べたのが9月7日なので、ちょうど2週間である。
解凍は常温に置くだけだ。電子レンジも流水も使わない。20分から30分、放っておく。この時間は季節によって変わるはずで、今の時期はこれくらいでちょうどよかった。
半解凍のまま洗い始めると、ちょうどよくなる
完全に解けるまで待たない。まだ芯が凍っている半解凍の状態で、サッと洗って捌き始める。洗って捌いているうちに、ちょうどいい具合まで解けてくる。
これは意図してそうしたというより、待ちきれずに始めたら結果的に良かった、という類の話ではある。ただ完全に解けきってから触ると身が柔らかくなりすぎて、包丁が入れづらい。半解凍のほうが扱いやすい。

墨と内臓は船の上で抜いてあるが、それでも洗うと残りが出てくる。フォーセップで墨を抜いているとはいえ、全ての内臓が取れるわけではない。残った内臓と目とクチバシは、この洗いのときに一緒に取ってしまう。
冷凍したほうが、皮は明らかに剥ぎやすい
捌いていて、いちばんはっきり感じたのがこれだった。
自分は刺身にするとき皮を剥ぐ。あのズルズルした口当たりが好きではないからで、これは前の沖漬けの記事にも書いた。それで生のイカも冷凍のイカも同じように剥いできたわけだが、冷凍したほうが明らかに剥げやすい。力を入れずに、するすると外れてくれる。

凍って組織が壊れたぶん、皮と身の間が離れやすくなっているのだろう。理屈は詳しく知らないが、手の感覚としてはっきり違う。「こりゃ釣りたてより楽やな」と思いながら剥いだ。
味のために冷凍しているつもりはなかったが、料理のしやすさという点では冷凍にはっきり分がある。
そしてこれは沖漬けに限った話ではない。普通に冷凍したアオリイカでも、ケンサキイカでも、皮が剥ぎやすくなるのは同じだった。漬けたから剥ぎやすいのではなく、凍らせたから剥ぎやすい、ということだと思う。
胴とエンペラを刺身に。味は冷凍前と変わらない
胴とエンペラを切って刺身にした。

食べてみて、冷凍前と特に味は変わらなかった。等倍のタレに2日漬けたときの、あのちょうどいい塩梅がそのまま残っている。水っぽくもなっていないし、身が硬くなってもいない。
イカは冷凍すると甘みが出ると言われていて、実際そう感じたこともある。ただ今回のように味を付けてから凍らせた場合、その差は分かりにくい。タレの味が乗っているぶん、身そのものの甘みの変化までは読み取れなかった。
足りなかったのは、味ではなく汁っ気だった
そのままでも十分食べられた。ただ食べているうちに、少しだけ物足りなさを感じた。
味が薄いのではない。汁っ気が足りない。漬けたてのものは表面がしっとり濡れているが、凍らせて解凍したものは、その濡れた感じが抜けている。味は身の中に入ったまま残っているのに、口に入れたときの潤いだけがない。
それで、食べるときにちょいと追い醤油をした。これで解決である。「あ、これでええわ」となった。
冷凍で失われるのは味ではなく水分だった、という話で、対処もこれだけで済む。覚えておくと役に立つと思う。
ただ、ここまで書いておいて何だが、ひとつ引っかかったことがある。
あとから醤油をかけるのなら、そもそも漬けなくてもいいのではないか。刺身のまま冷凍しておいて、食べるときに好みの醤油をかける。それでもトータルの味は変わらないかもしれない。身の中まで味が入っているぶん漬けたほうが有利なはずだ、と言いたいところだが、そこまで自信を持って言い切れるほどの差は感じなかった。
それでも自分は、次もたぶん船の上でタレをかける。釣ったその場で漬け込むという手順そのものに、ロマンがある気がしないでもない。味だけで説明がつかない部分が料理には残っていて、そこは無理に合理へ寄せなくてもいいと思っている。
ゲソはホイルに入れてトースターへ。熱が止まった隙にバターを落とす
ゲソは適当な大きさに切って、アルミホイルに入れてトースターで焼いた。
うちのトースターには癖があるというか過熱防止というか、5分ほど経つと熱が一時的に止まる。ずっと点きっぱなしではなく、30秒から1分ほど休むのだ。この止まっている隙にバターを落とす。そこから残り2分ほど焼いて仕上げる。

熱が止まっているタイミングを狙うのは、バターが一気に溶けて流れてしまうのを避けたいからだ。とはいえ、そこまで厳密な話でもない。庫内が落ち着いているときに入れると絡みがいい、という程度である。
これが濃い味付けで、美味すぎる。沖漬けのタレが焦げたところにバターが乗るのだから、まずいわけがない。刺身が上品にまとまっているぶん、こっちの振り切った濃さが際立つ。「これは反則やろ」という味だ。
ゲソは最初に麺つゆで漬けたときから、一貫して当たりであり続けている。身に味が入らなかったあの回でも、ゲソだけは絶品だった。
ただ、ゲソが一番うまいのはこの焼き方ではない
正直に書いておくと、これがゲソのベストではない。
一番うまいのは、新鮮なうちに肝も一緒に入れて、フライパンで手早く焼いたものだ。トースターでじっくり火を入れるより、短時間で一気に炒めたほうがうまいと思っている。今回のトースター焼きが不味かったわけではない。十分にうまかった。ただ、上があると分かったうえで食べている。
そして肝は、新鮮なときでないと食う気にならない。2週間凍らせたものに肝を入れようとは思わない。刺身は冷凍前と変わらず、皮はむしろ剥ぎやすくなり、冷凍にはいいところばかりのように書いてきたが、ここだけは違う。
冷凍に限った話でもない。肝を使うのは、釣った日か翌日くらいまでにしている。3日目くらいからは、肝は食べないようにしている。
冷凍がどれだけ優秀でも、内臓だけは鮮度の話が別にある。
醤油に漬けてもアニサキスは死なない
ここは一応、書いておいたほうがいいと思う。
厚生労働省が挙げているアニサキスの予防法は、-20℃で24時間以上の冷凍か、60℃で1分以上(70℃以上なら瞬時)の加熱である。そして重要なのは、醤油・酢・塩・わさびでは死なないと明記されていることだ。沖漬けは醤油に漬け込む料理だが、漬けたから安全ということにはならない。
自分が冷凍しているのは保存が目的で、寄生虫対策のつもりはなかった。ただ結果として、指針に沿った方向ではある。
とはいえ、これで安全だと言い切るつもりもない。家庭用の冷凍庫は-18℃前後の設定が多く、-20℃に届いていないことがある。「強」にすれば下がる機種もあるが、うちの冷凍庫が実際に何度なのかを測ったわけではない。あくまで、そういう指針があるという話として読んでもらいたい。
沖漬けは、冷凍できる
2週間凍らせた沖漬けは、味も食感も落ちていなかった。足りなかったのは汁っ気だけで、それは追い醤油で埋まる。皮に至っては生より剥ぎやすくなっていて、捌く手間はむしろ減った。届かないのは、肝を使う食べ方だけだ。
沖漬けの記事はこれで4本目になるが、前の3本は全部「漬け方」の話だった。2倍濃縮の麺つゆ、3倍濃縮の麺つゆ、等倍のだし醤油と、濃さも種類も変えてきて、ようやく味は決まった。今回でそこに保存が加わったことになる。ちょうどいい濃さで漬けて、2日で止めて、1杯ずつ凍らせる。これで一通り回るようになった。
冷凍庫は釣った日の記録になっていると以前に書いたことがある。8月22日のイカは、あと1杯だけ残っている。

コメント